大野会計コラム
三方よしの税務調査
2024.06.12
税務調査について
先日、ある個人のお客様より税務調査の立ち合いのご依頼がありました。
依頼者のA様は、以前からお客様をご紹介いただいたり、弊所とお付き合いはあったのですが、顧問先様ではなく確定申告等についても全く関与がない方でした。
A様は、勤務先の会社から給料と高額な外交員報酬を受け取っておられ、個人で給与所得と事業所得(白色)の確定申告をしておられたとのこと。調査も今回が初めてとのことで、ずいぶんとご不安なご様子でした。
まずは申告の状況を把握するため、3年分の申告書を確認し聞き取りをさせていただきましたところ、なんと領収書などの証憑書類については一切の保存がなく、記帳等もしていないとのこと。
事業収入については漏れはないが、経費については推計により計上しているとのお話でした。他にも申告していない不動産所得、住宅借入金特別控除の誤りなどもあるようでした。
税務調査で対抗できる材料があまりにも乏しく、こちらもどういった出方をするべきかと頭を抱えましたが、A様には、税務署から悪い印象を持たれないように、調査にあたりごまかしたり取り繕ったりせず、真摯な対応を心がけていただくようお願いしました。
調査当日、担当調査官からの質問は、事前の想定通り経費の内容確認が中心でした。もちろん不動産や住宅借入金控除の誤りについても把握されていました。
A様には事前の打ち合わせ通り、ありのままを誠実な態度でご返答いただきました。書類がないなどの実態には調査官も苦笑いでしたが、A様の真摯に対応しますという姿勢は印象付けられたのではないかと思います。
調査自体は半日ほどで終わりました。
2週間ほどして税務署より連絡がありましたので、A様と共に税務署へ赴きました。
統括官(一般企業の課長にあたる方です。)同席のもと、担当調査官からの指摘は、経費の7割以上を事業のために使ったものではないと否認、不動産所得の申告漏れ、しかも過去5年分の修正(通常は3年)と非常に厳しいものでした。経費の否認など具体的な根拠もなく、到底受け入れられるものではありません。
ここからは調査に自信を持つ弊所所長が、お互い納得ができる着地点を模索しながら交渉を進めます。何気ない会話の端々にも、高度な駆け引きや意図が込められていることが分かります。
交渉の結果、増差税額について弊所で計算をすること、今後弊所で責任を持ってA様の適正な申告をサポートすることをお約束し、指摘よりも大幅に有利な条件で修正内容のすり合わせを行いました。
ここからは実際に修正内容を固めていきますが、所長は交渉の中で、今回のケースはスピード感が重要と判断しました。スピード感と正確さを意識して業務にあたりました。
書類が保存されておりませんので、事業所得については推計値によらざるを得ないところもありますが、資料が残っていた不動産所得については、物件の購入時からの資料を収集し、税法の根拠資料とともにきっちりとファイリング。
所内で何度も打ち合わせを重ねながら、どこに出しても恥ずかしくないと思える資料を作成しました。
修正内容についてあたりを付けているとはいえ、統括官、調査官にこちらの主張を認めてもらえない可能性もありますので、最悪のケースを頭に入れつつ直前まで所長と打ち合わせを重ねます。
税務署訪問から約1週間で修正内容をまとめ上げ、A様に修正の内容、根拠をきっちりとご説明し、この内容であればとご了承を得て税務署へ。
統括官、調査官に、作成した資料とともに修正内容をご確認いただくと、その資料の内容と1週間という短期間で作り上げたことに感心していただいているご様子でした。
後日税務署より弊所作成の修正内容で問題ないとのご連絡をいただき、A様にご報告しました。
修正申告は3年分、税額も当初の指摘より大幅に減額でき、A様には大変お喜びいただけました。
今回のケースは、書類や帳簿等の保存がないという不利な状況でのスタートでした。
調査が長引くことも覚悟しましたが、税務署側にも同様の懸念が少なからずあったのではないかと思います。そこを弊所がリードしつつ、スピード感を持って三者が納得できる着地点を提示できた、まさに近江商人の「三方よし」を体現できたかのようなケースとなったのではないでしょうか。