大野会計コラム
令和2年度税制改正「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の規制の創設」
2020.04.17
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目次
国内居住の高額所得者が、米国や英国に所在する中古不動産を取得し、多額の減価償却費を計上し損失を発生させ、この損失を給与所得や事業所得と損益通算することで、所得税を減少させる事例が見られることから、国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例(規制)が創設されました。
会計検査院の「平成27年度決算検査報告」による指摘
国外に所在する中古等建物の貸付けに係る不動産所得の計算については、「簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合していないおそれがあると認められ…賃貸料収入を上回る減価償却費を計上することにより…損益通算を行って所得税額が減少する」こととなっているとの指摘がなされました。
事例1:国外に所在する中古等建物の貸付けに係る不動産所得の計算について、簡便法により耐用年数を7年と算定し、5,134万余円の減価償却費を計上し、これにより発生した不動産所得の損失4,405万余円を同年分の給与所得等と損益通算を行うなどして、所得税額を減少させていました。
事例2:東京の麹町税務署管内の個人延べ337人が国外不動産を取得し、39億8,000万円の赤字を計上していました。
改正のポイント
① 国外中古建物(注)の貸付により損失が生じている場合、その損失の原因となっている部分の減価償却費に相当する金額は生じなかったものとみなされます。
(注)「簡便法」又は「一定の書類の添付がない見積法」による耐用年数を採用している建物
② 国外中古建物の貸付により損失は、国外不動産から生じる不動産所得の金額から控除できます。
③ 国外中古建物を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上、その取得費から、上記①のなかったものとみなされた減価償却費に相当する金額は控除しません。
適用時期
2021年から適用されます。
この改正による影響
① 国外中古建物の貸付により生じた損失は、給与所得や事業所得等と損益通算することができず、税額軽減ができなくなります。
② 国外中古建物を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上、その取得費から改正のポイント①によりなかったものとみなされる減価償却費は控除されないため、減価償却費分だけ譲渡所得税等が軽減されます。
③ 2021年までに取得した国外中古建物であっても今回の改正は適用されます。
④ たとえ見積法により耐用年数を算定した場合であってもその見積耐用年数が適切であることを証する一定の書類の添付がない場合には、簡便法と同様に改正の対象になります。
⑤ 住宅の平均使用年数は、日本約32年、米国約66年、英国約80年となっています。